「戦鎚の巨人」を継承し、マーレの影の実力者として君臨するタイバー家。
エルディア人ながら国を救った「名誉マーレ人」として名声を集め、世界各国のセレブたちに顔の効く当主ヴィリーですが、レベリオ区の祭典でエレンの手にかかり壮絶な最後を遂げました。
で、こう思った読者も多いことでしょう。
「この人、結局何がしたかったんだっけ?」
進撃の巨人の物語も当初の「巨人vs人類」というシンプルな世界観から脱却し、複雑な国際関係の中でそれぞれの目的が交錯する重厚なストーリーとなってきました。
要するに話が難しい!!
そこで、この記事ではパラディ島(エルディア国)に宣戦布告したヴィリー・タイバーの目的をわかりやすくまとめます。
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ヴィリー・タイバーの目的
ヴィリーの目的は、ひと言でまとめてしまえば
「マーレ国内のエルディア人の存続と地位向上」
です。
ヴィリー・タイバーについて、基本的なことは本編を読んでいれば理解できると思います。
- マーレを裏で仕切ってきたタイバー家の当主
- マガト隊長と手を組み軍を掌握させる
- パラディ島に宣戦布告した
タイバー家がなぜマガトを軍のトップにすえる必要があったのか。
同胞のエルディア人の国であるパラディ島に宣戦布告したのはなんのためか。
一つずつ謎を紐解いていきましょう。
マーレとエルディア人の置かれた現状
ヴィリーの行動を理解するために、当時のマーレとエルディア人が置かれた状況をおさらいしておきましょう。
国際関係におけるマーレの弱体化
かつて世界を支配したエルディア帝国から巨人戦力の大半を手に入れ、大陸一の国家となったマーレ。
当時は巨人の力にかなうものはなく、マーレは約100年の間、最強の国家でした。
しかし世界の国々はその間に科学技術を磨き、巨人をも倒せるほどの兵器を開発し始めました。
対するマーレは巨人兵力にずっと依存してきたため、近代兵器の開発が遅れています。
近いうちに巨人を超える戦力が普及すれば、マーレは滅びの道をたどることは確実です。
しかし当のマーレの大半の人はまだ危機感が薄く、国を挙げての改革には着手できていません。
「マーレ人の戦争とは新聞の活字にのみ存在します」
「鉄砲玉を浴びるのが手懐けた悪魔の末裔ならなおのこといい」
進撃の巨人 第97話「手から手へ」
多くのマーレ人は自分で戦争をせず、危険な任務は「悪魔の末裔」と差別されるエルディア人に任せている。そのくせ軍国主義で領土を広げるための戦争をやめない。
しかし、近い将来マーレは確実に戦争に勝てなくなる。
マーレ戦士隊のマガト隊長はこの事態を懸念し、マーレの徴兵制復活を働きかけるなどして国民の危機意識を目覚めさせようとしています。
エルディア人根絶論
一方、エルディア人の置かれた現状です。
かつて巨人の力で世界を支配したエルディア帝国は人々から恐れられていました。
その後、マーレによってパラディ島に追放されたエルディア帝国。大陸に残されたエルディア人は「悪魔の末裔」と言われ差別されるようになります。
国を失った大陸のエルディア人は各国の収容区に住まわされます。
マーレでは巨人を兵器として運用するノウハウがあったので差別されながらも存在価値を認められていたエルディア人ですが、その他の国にとっては悪魔の末裔としか認識されていません。
戦士候補生のウドの話では、「外国のエルディア人に対する敵意はマーレの比じゃない」とのこと。
ジークは「世界からはエルディア人の根絶を願う声が高まった」と言っています。
こんな状況で、マーレが滅んでしまったらどうでしょう。
エルディア人は存亡の危機に立たされます。
もはや巨人兵器としての戦術的価値も失うエルディア人を生かそうとする者はいないかもしれません。
ヴィリーはこの状況をなんとか打破し、マーレとエルディア人の存続のための策を練ることになります。
このような流れから、エルディア人に対する偏見にとらわれず、マーレを立て直す政策を真剣に考えているマガト隊長に接近し、手を組むことになったのです。
マーレとレベリオ区に住むエルディア人を守るためには何が必要か。
先に書いた問題を解決するには次の2つが重要となります。
- マーレ滅亡の危機からの脱出
- 世間のエルディア人に対する憎しみをなくす
ヴィリーの計画
ヴィリーはマーレのレベリオ区にて各国の要人やメディアを招いた国際的な祭典を開きます。
争いを放棄したはずのパラディ島に不穏な動きがあること、そのパラディ島勢力がすでにマーレに潜入していることを察知したヴィリーはそれを逆手にとる策を実行するのです。
ヴィリーの計画と成果をまとめると次のようになります。
- パラディ島を世界の敵としてマーレへの敵意を逸らす→成功
- マガトをマーレ軍トップにして軍を再編する→成功
- 自分を含めレベリオ区のエルディア人を「被害者」にすることで世間の同情を得る→成功
- 現れたエレンを倒し始祖の巨人の脅威を取り除く→失敗
1つのイベントにこれだけの目的を詰め込むとは、ヴィリー・タイバーはかなりの策士であったことがうかがえます。
各項目を詳しく見てみましょう。
パラディ島を世界の敵としてマーレへの敵意を逸らす
「敵の敵は味方」という言葉があります。
人は「敵」がいると団結しやすくなります。国という大きな単位でもそれは同じです。
実際、この祭典の前はマーレが世界の「敵」とされていました。
マーレが「超大型巨人」と「女型の巨人」を失ったことでチャンスと見た各国が連合してマーレに戦争を仕掛けます。
なんとかマーレが勝利したものの、終戦まで4年もの歳月がかかりました。
ヴィリーはこの状況をそっくりパラディ島に仕向けようとしたのです。
エレン・イェーガーが始祖の巨人を奪い、パラディ島の「不戦の契り」の効果が消失したこと、全世界が大型巨人による「地ならし」の脅威に晒されていると世界に宣伝します。
こうして世界は打倒・パラディ島という共通の目的のために団結します。
その間に世界からの敵意を逃れたマーレは国力増強のための時間が稼げるというわけです。
マガトをマーレ軍トップにして軍を再編
ヴィリーの策は巧妙です。奇襲したエレンさえもヴィリー達の目的を果たすのに一役買うことになるのです。
マーレ軍幹部を殺し諸力艦隊と軍港を壊滅させた。これで時間は稼げたはずです。
諌山創『進撃の巨人』第105話「凶弾」より
レベリオ区襲撃後にエレンはこのように戦果を報告しています。
しかし、マーレ軍幹部の殺害に関してはヴィリーの計画に乗せられたということに気づいていません。
演説の最中に襲われることを予測していたヴィリーは、軍幹部を端の一区間にまとめておくように指令を出しています。
ヴィリーは計画通り軍の幹部を皆殺しにさせ、親エルディア人派で有能なマガトに軍を掌握させることに成功しました。
もっとも、アルミンの策による主力艦隊と軍港の壊滅は計算外だったでしょうが…。
レベリオ区のエルディア人と自らを犠牲に
さらにヴィリーは世間のエルディア人に対する敵意を取り除こうとします。
もちろん、悪魔と呼ばれたエルディア人の評判を簡単にひっくり返せるわけはありません。
そこでヴィリーは
自分と、エルディア人の同胞の命を犠牲にしたのです。
ヴィリーとマガトはパラディ島勢力がマーレに侵入しているのを察知していました。
その上で世界中の要人や記者が一堂に会する場を設け、自分とエルディア人の市民を襲わせたのです。
私を含めレベリオ収容区のエルディア人は哀れな被害者でなくてはならない…
第100話「宣戦布告」より
「世界を滅ぼす凶悪な敵に戦いを挑み、殺されたヴィリーとエルディア人たち」
このような見出しの新聞が世界じゅうで読まれれば、エルディア人への感情は一気に同情へと変わるに違いない。
しかし自分だけでなく、罪もない同胞を死なせる決意はどれほど重いものだったでしょう。
演説前の控室でのヴィリーの表情がそれを物語っています。
しかし、自分を含め少数のエルディア人を犠牲にすることによって、エルディア人に対する世間のイメージは大きく変わることになります。
パラディ島のエルディア人は?
もう一つヴィリーが犠牲にしたもの。
それが「パラディ島のエルディア人」です。
先祖から受け継がれた真の歴史によって、ヴィリーはパラディ島のエルディア人たちが「悪魔」などではないことを知っています。
しかし、パラディ島を共通の敵と宣伝することで、世界の敵意を「パラディ島のエルディア人」に向けさせます。
いわばパラディ島の人たちをスケープゴートにしたのです。
ヴィリーにとってパラディ島は確かに脅威ですが、多くの敵のうちの1つに過ぎません。
劇的な演出のために誤解しがちですが、パラディ島への宣戦は「目的」でなくマーレとマーレ在住エルディア人を守るための「手段」です。
現れたエレンを倒し始祖の巨人の脅威を取り除く
パラディ島勢力の最大の脅威が「始祖の巨人」の力の発動です。
結果は失敗に終わりましたが、襲撃してきたエレンを「戦鎚の巨人」で倒すまでがヴィリーの計画であったのだと思います。
ヴィリーが殺されるまでは、タイバー家の当主であるヴィリーが「戦鎚の巨人」である可能性が高いと思われていたはずです。
であれば、戦鎚の能力を得ようとエレン自ら乗り込んでくることが考えられます。
ヴィリーが殺された直後に「戦鎚の巨人」がエレンとの戦闘に入ったこと、マガトが事前に対巨人砲を都合のいい位置に用意していたことも、エレンの襲撃を予測していた根拠になります。
しかし最終的には「戦鎚」をエレンに喰われるという失敗に終わりました。
他の目的と比べると、戦闘が前提となるため確実性の低い作戦だったと言わざるを得ません。
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ヴィリーの目的と成果
ヴィリーの命を賭けた計画は、半ば成功したとみえます。
思った通りに世界はパラディ島を共通の敵として団結することになります。
パラディ島の側からしたらとんでもない事をしてくれたという感じですが、世界というものはどちらかの利益はもう一方の不利益となるようにできているようです。
結果、マーレとパラディ島は戦争になるわけですが、どちらも目的は「自分たちの身を守るため」なんですよね。
悪人などいなくても、人々は争うことになる。
我々の世界の歴史も、このような話の積み重ねの上にできているのでしょうね。
コメント
すごく分かりやすかったです。死に様が間抜けっぽかったからネタキャラだと思ってましたが全部計算づくだったんですね…
本当は重要なキャラなのに登場から死までがモブキャラ並だったのが悲しみですね…